テラヘルツ・カラースキャナー
(実時間THz時間領域分光ライン・イメージング)


 テラヘルツ波(THz波:周波数0.1〜10THz、波長30μm〜3000μm)は、X線や超音波に代わる非接触・非侵襲な内部透視手段として、セキュリティ・工業計測・生体計測を始めとした様々な分野での応用が期待されている。特に、最近、THz領域においてビタミン・糖・医薬品・農薬・禁止薬物・プラスチック爆弾・ガン組織を始めとした様々な物質が固有の吸収スペクトル(THz指紋スペクトル)を示すことが明らかになってきた。したがって、内部透視イメージをTHz周波数毎の色付きカラー画像(THz分光画像)として測定できれば、THz指紋スペクトルを利用して『どこに』『何が』あるかを識別することが可能となり、成分分析型の内部透視イメージングが実現できる。
 しかし、従来のTHzパルスを用いたTHz時間領域分光(THz-TDS)イメージングでは、基本的に点計測であるため、イメージを取得するためには、複数の機械的走査機構(時間遅延走査、サンプル移動)が必要となり、長い測定時間がかかっていた。その結果、測定対象が静止物体のみに制限され、実用化を実現する上で大きな障害となっていた。もし、このような機械的走査機構を省略できれば、測定時間の大幅な短縮が可能になり、動体サンプルへの適用も可能になると考えられる。
 当研究室では、電気光学的時間-空間変換による実時間THz時間波形計測と線集光THz結像光学系による実時間THzライン・イメージングを複合することにより、機械的走査機構が不要な線集光型実時間THz-TDSイメージングを開発した。 本システムでは、THz線集光ラインを用い、一般のカラースキャナーと同じくラインの動き(または測定対象の動き)に合わせて実時間でラインイメージを測定することにより、移動物体の2次元THzカラー画像の取得も可能になる。

 実験装置図を図1に示す。高強度THzパルスはフェムト秒チタン・サファイア再生増幅器からのレーザー光をZnTe結晶(ZnTe1, 15mm角×1mm厚)に入射することにより発生させる。THzパルスとプローブパルスをTHz検出用ZnTe結晶(ZnTe2, 25mm角×1mm厚)に非共軸入射することにより、THzパルス電場の時間波形がプローブパルスの空間複屈折量分布に変換される(電気光学的時間―空間変換)。クロスニコル配置の偏光子ペア(図1では省略)によってプローブ光の空間強度分布に変換されたTHzパルス電場時間波形は、結像レンズを介して高速CMOSカメラ(232*232ピクセル)の水平座標に展開される。一方、CMOSカメラの垂直座標は1次元イメージングに利用可能であるので、円筒THzレンズを用いてTHzビームをサンプルに線集光し、それをTHzレンズペアでZnTe2に結像することにより、サンプルの1次元THzイメージをCMOSカメラの垂直座標に展開する。このように、水平座標に時間軸、垂直座標に空間軸が展開された2次元時空間THzイメージを、高速ロックイメージング検出する(500fps)。最終的に、2次元時空間THzイメージの時間軸(水平座標)を高速フーリエ変換することにより振幅と位相のTHz分光ラインイメージを実時間で得る。

図1 実験装置

 テストサンプルには、THz帯フォトニック結晶の1つであるメタルホールアレイ(MHA)を用いた。MHAは、空孔率を調節することにより、透過周波数が選択可能なTHz帯バンドパスフィルターとして利用できる。今回は空間的に異なる透過特性を有する4分割MHA(透過周波数=0.2THz, 0.4THz, 0.8THz, 1.6THz;図2)を作成し、ステージで連続的に移動させながら測定を行った。まず従来の点計測型THz-TDSイメージング装置で計測を行った。図3(a)は周波数を連続的に変化させていった場合のTHz分光画像(41pixel*41pixel)を示しており、4分割MHAのスペクトル特性を反映しているのが分かるが、測定時間には10時間を要している。次に、THzカラースキャナーで測定した結果を図3(b)に示す(232pixel*200pixel)。図3(a)と同様、4分割MHAのスペクトル特性を反映した結果が得られているが、測定時間はわずか20秒である。両手法でピクセルレート(総ピクセル数/測定時間)を比較すると、THzカラースキャナーが点計測型THz-TDSイメージング装置よりも10000倍以上高いことになる。

図2 測定サンプル(4分割メタルホールアレイ)
図3(a) 測定結果(従来法)
図3(b) 測定結果(THzカラースキャナー)

 次に、半導体ICとヒト歯牙切片をTHzカラースキャナーで計測した結果を図4(a)及び(b)に示す。いずれにおいても、特徴的なTHz分光画像が得られていることが分かる。

図4(a) 半導体ICのTHz分光イメージ
図4(b) ヒト歯牙切片のTHz分光イメージ

 

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